序

 その僧侶は流れる涙を拭きもせず経をあげていた。

 驚いたのは僧が泣いていたからではない。テレビに映っているその僧の顔に見覚えがあったからだ。何という名だったか、と記憶を辿っていると、思い出す前に画面に名前が出た。

「星瞬・・・・・・」

 思わず声に出してから、夫に聞かれやしなかったかと振り返る。夫はこちらを気に留める様子もなく出勤の準備をしていた。

 生きていたのか。あなたも。

 あの街で生きていたのは、もう何年前になるだろう。

 そしてもう一つの名を思い出した。あの頃は桃と名乗っていたのだ。


海に行きたいと彼女は言ったカテゴリの最新記事