第四章 エキゾチッククレイジーナイト イン ネオ・ホンコン<1>

第四章 エキゾチッククレイジーナイト イン ネオ・ホンコン<1>

 トキはスラムでは新参者だった。

 トキには、他の多くのスラムの子どもたちと同じく、両親がいなかった。物心付く前からスラムにいた、という子どもも少なくない。そういう子どもは自分の年や本当の名前を知らないし、親を見たこともない。

 しかしトキは、すぐに他の子どもたちが一目置く存在になった。それは、トキが他の子どもたちが持っていないものを持っていたからだ。

 はじめ、トキは難民だった。両親は医師で、難民キャンプで病人の看病やけが人の手当をしていた。

 トキが生まれたのは亜熱帯の島だ。赤ん坊の頃からジャングルの中で育った。森の樹も動物たちも、トキと遊んでくれる友だちだった。世界中で戦争していたが、トキの島は平和だった。

 三歳になる頃、とうとうトキの島にも戦火が及んだ。ジャングルは焼かれ、トキの友だちだった動物たちもみんな焼かれた。両親はトキを連れて大陸へ逃げた。

 大陸では恐ろしい病気が流行っていた。難民キャンプでもどんどん死んだ。病気のおかげで難民の数は半減した。看病していたトキの両親も、間もなくその病気で死んだ。

 病気から逃れるために難民キャンプを出るという友人一家についてキャンプを出た。大陸でも戦争していた。どんな田舎でも、人家があると空爆を受けた。戦えない人々は山へ逃げた。山にはゲリラ兵がいた。また殺された。捕まった子どもたちは少年兵にされた。トキは六歳だった。両親のおかげで読み書きができた。ゲリラ兵の中には読み書きができない兵士も多かった。トキは運が良かった。トキは上級の兵士について補佐をする役になった。そしてある日、逃げた。

 ネオ・ホンコンは中立地帯だ。そこに最も近い場所まで来たとき、脱走を実行した。

 トキの上官は女性だった。もしかしたらトキが逃げるのを知って、見逃してくれたのかもしれない。

 トキはネオ・ホンコンまでの一五〇キロを歩き通した。そしてスラムに潜り込んだ。トキは八歳になっていた。

 トキはスラムでは新参者だった。スラムの暮らしは当然のように貧しかったが、キャンプより少しばかり衛生的で、撃ち殺される心配がないだけで、安心して眠ることができた。でも「天国のよう」とは思わなかった。それはトキにとって、生まれ育ったジャングル以上の場所はなかったから。

 そういうわけで、トキは年齢より落ち着いた子どもだった。簡単に喜んだり、すぐに怒り出したりしなかった。話し方も大人びていた。字を読めて、病気や怪我にも詳しく、銃やナイフも使えた。物識りで、淡々としていた。

 トキはスラムでは一目置かれる存在だった。

 ある日、トキと年の近いアラタが、眠る前に言った。

「トキ、時間屋って知ってっか?」

「知らない」

「タイムマシンがあるんだってさ。行ってみねえか?」

「タイムマシン?」

「過去とか未来に行ける機械だよ」

「……でも、そういうのは金がかかるんじゃねえの」

「それがその店、人がいるのを見たことがねえんだよ。だからこっそりさ、見に行こうぜ」

「うん……まあ、いいよ。明日な」

 

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