第三章 中世の呪われた古城と魔女の使い魔<1>

第三章 中世の呪われた古城と魔女の使い魔<1>

   どうして。

 空が低い。

 上流で降った雨で河は水かさが増し、轟々と音を立てて渦を巻きながら流れていく。

 風が強い。

 灰色の雲の塊が形を変えながら空を疾走ってゆく。風に髪が巻き上げられる。

(嵐が来るぞ)

(あの魔女が仲間を呼んだんじゃないか)

 村人たちの話し声がする。

 絞首台は四角く組んだ木の柱に縄が吊るされた粗末なものだったが、足場の分、見物に集まった村人たちより頭一つ高い。見物人を見渡しても誰が話したのかはわからなかった。見たことのある顔が多いが、親しかった人たちは見当たらない。さすがに居たたまれなくて見に来ていないか、あるいはずっと後ろの方で見ているのかもしれない。

   どうして、わたしが。

 突然だった。魔女だ、と言われ、捕らえられた。何を言っても、懇願しても、誰も聞くものはいなかった。

 世界は一変した。

 穏やかな毎日は消え失せ、牢獄に繋がれ、それでもいつか悪夢は覚めると信じていた。だが今日とうとう刑場に引き出されて、ようやく認識した。

   わたしは死ぬのか。

 その時、群衆の中に両親の姿を見つけてしまった。正しくは叔父夫婦だ。両親を早くに亡くしたため、叔父夫婦に育てられたのだ。

 その、浅はかな欲望に満ちた相貌。

(あの娘が死ねば兄貴の遺した小金が手に入る)

(早く死ね)

   運命とは。

 ぐらりと視界が揺れる。集まった人々の顔が皆、ひとつのことを期待している。

(早く死ね)

(早く死ね)

(早く死ね)

(早く死ね)

(早く死ね)

(早く死ね)

(早く死ね)

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

   運命とは、偶然もたらされる幸福などではなく、巧妙に仕掛けられた必然の不幸だ。

 悟った瞬間、足の下の板が開き、がくんと身体が落ちるのを感じた。

 雲の合間から太陽の光が筋になって差し込み、一瞬、青空がのぞいた。

 


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