スター・レッド(二次創作)1

スター・レッド(二次創作)1

「ハイ!」

 クラブのドアが勢いよく開いて、真っ赤な少女が現れる。

「ハイ、レッド・星!」

「ヤ!」

 クラブの先客がグラスを掲げて応える。

「なんかおもしろいことある?」

 真っ赤なマントとヘルメットを脱ぎながら、星は客の一人のキャップをかぶった男に言った。場慣れした態度とは裏腹の、澄んだ声だ。

「べつに。天候は?」

「上じょう」

 星はフロアに降り、キャップの男の横に座った。彼は通称サンシャイン。薄い色のついたメガネをかけている。上区を仕切るレッド・星の右腕だ。

 店内はカラフルなLEDやレーザーの光が飛び回り、ダンスフロアでは大音量で流れる曲に合わせて踊っている客がいる。

「火星が近づいてるわよ。あとで郊外まで飛ばしましょ」

「火星を見たいわけ?」

「星ならなんでもいいのよ。これなに」

「リゼルギンの新しいミックス。きくってさ」

 そう言うと、サンシャインは火をつけたばかりのタバコを星に渡す。

「はん」

 星は深く吸い込んだ。

 星にはどんな麻薬もきかない。でも酔ったふりをして目を閉じてみる。

 そして赤い風の吹く赤い星のことを考える。

 男が一人、店に入ってきた。黒いマントに身を包み、サングラスを掛けている。入口近くのカウンターに座る。

「いらっしゃい。ご注文は?」

「ペニロイヤル」

 男は出された緑色のカクテルをひとくち飲むと、バーテンに訊ねた。

「あの美人、だれだい?」

「……あんたモグリだね。レッド・星を知らないんじゃ」

 フロアにいた星が、彼に気付いた。彼のいるカウンターエリアと星の座っていたフロアは離れていて、音楽もうるさかったので、サンシャインにはカウンターでのやりとりは聞こえていなかった。

「どうしたい、星」

 星が立ち上がる。

 客たちが注目する中、つかつかとカウンターに歩み寄る。

「ちょいと。おたく、どなたよ」

 タバコの煙を吐きながら星が言った。

「お客」

 男は口の端に不敵な笑みを浮かべて答える。

「はん」

 次の瞬間、星の右手が翻った。

 弾き飛ばされたサングラスが、虚しく床に転がる。

「!」

 露わになった顔を見て、サンシャインが叫ぶ。

「下区のヤツだ!」

 その声に、他の客が一斉に立ち上がった。

「出口を張りな!」

 星が怒鳴り、あっという間に男は包囲された。

「ちょいと!いい度胸してるじゃないの、おたく!上区のレッド・グループのたまり場にお一人でとはさ。こいつは誰なの?サンシャイン」

「たしか下区のボスの右腕だ。名前は知らん」

「ニュー・トーキョーシティは自由都市だと思ってたがな。ここじゃ名乗らないと酒も飲めんのかい?」

 男は涼しい顔で言った。

 ピン、とカウンターにコインを投げて、星が言う。

「あんたの飲みしろ。お帰りボーヤ、場違いだから」

「……飲みしろの、お礼がいるな」

 言うなり男は星の腕をひっつかんで、キスをした。

「なに、この……!」

 不意を突かれた星がすかさず拳を繰り出したが、男はひらりと飛び上がってこれをかわし、そのまま天窓に張り付いた。

「反重力ベルトをつけてるぞ!」

「あいつ月から来たんだ!」

「外だ!」

「とっつかまえてベルトをはげ」

 男は天窓をくるりと開けて外へ逃げる。男を追って、皆外へ飛び出す。

「ベルトどころか全部むしっちまいな!」

 星が怒りにまかせて叫んだ。

「逃げたぞ!バイクだ!」

「追え!」

 星もヘルメットをかぶり、バイクにまたがる。

「お礼のお礼を返してやる!」

「星!」

「なめやがって!」

 星の赤いバイクが走り出す。サンシャインが追う。

「すごい……ボスは酔わなかったのかな。二服吸って」

「星はぜったい酔わないんだ」

 サンシャインはギアを最速にした。星は速い。本気を出したらサンシャインは追いつけない。

 バイクは郊外へ伸びるハイウェイに入る。

「スピード違反です。スピード違反です」

 ハイウェイパトロール本部のランプが明滅する。

「またレッドのグループだ」

「ほっとけ、どうせ追いつけん」

 ベテランのポリスたちはレッド・グループのバイクは見て見ぬふりだ。

 夜のハイウェイを数台のバイクが轟音を立てて走り抜けていく。

「この先は郊外だぜ!」

「ヤツ、シティの外へ出る気だ!」

「星!星、深追いするな!」

「なによ!どうせ星を見に行くはずだったんじゃないの!」

 バイクは外門に通じるトンネルに入った。

 トンネルの外には、夜空が広がっていた。

 満天の星空の下、ニュー・トーキョーシティのドームがきらきらと煌めいている。ドームの外は荒野だ。

 星がようやくバイクを止めた。

「あのヤロー……!見失ったわ」

「速いなボス」

 一歩遅れて、サンシャインが追いついた。

「遠くまで来たなあ。みんなここまで来ないぜ」

「どっか近くにいるはずよ、あいつ!」

 星は苛立たしげに言った。まだ怒りの余韻が収まらない。

「シッ」

 サンシャインが唇に人差し指をあてた。

「なに……」

 リーリーリー……

「虫が鳴いてる」

 耳を澄ますと、草の間から細い虫の音が聞こえてきた。

「……ロマンチストね。サンシャイン」

 星は微笑んだ。

「郊外の放射能汚染なんてウソね。虫がちゃんと生きてるんだから……」

「半分は、まあ迷信だろうけど。雨なんか降ったらあぶないんじゃないの。少しはさ……放射能雨で頭がハゲるって話もあるしさ」

 サンシャインは空を指して言った。

「ほらボス、火星だろあれ」

「火星がなによ」

「いや、ボス執着してるから」

「はん。あれ、めだつだけよ」

 ヴーーーーンン……

 遠くからヘッドライトが近づいてきた。

「あ、みんな追いついてきたかな」

「お待ち!ちがうわ……!」

 突然パアッと眩しい光に照らされる。バイクにまたがる間もなく、二人は十数台のバイクに包囲された。

「下区の連中だ!」

 一台のバイクが進み出る。

「レッド・星?」

 大柄な男だ。太い眉と団子っ鼻が愛嬌を感じさせる。男の右には、先程店に現れたマントの男がいた。

「まあ、」

 星はくるりと向き直り、バイクに腰掛ける。

「まんまとおびき出しに成功したってわけ?なんの用?」

「……いやさ……」

 大柄な男は鼻をかいて、いきり立つ猫をたしなめるように言った。

「ニュー・トーキョーシティは一つのドームなのにだな……なにも区を二つに分けるこたないと思ってさ。その相談をね……」

 彼の笑顔は非常に友好的で、敵意は感じられない。罠か。

「……始めまして、オレ大内源。上区の女ボスのうわさは聞いてたが……いやさ、美人だなあ」

 それとも、馬鹿か。星は判断しかねたが、大内源のおしゃべりに乗るつもりはなかった。

「へえ!ゲンだかガンだか!サシで話ができない男などに用はないね!半人前の月世界人なんぞを相棒にしてさ!  どきな!」

 星はバイクにまたがった。

「やってみな!そのままシティに帰れるかどうか!」

 源もバイクのエンジンをふかす。星は横にいるサンシャインに囁いた。

「左だ!あの月世界人をつっきるよ!」

「ヤー、ボス」

 バウッと凄まじい音を上げて、星のバイクが宙へ躍り出た。

「わあっ!」

 数台のバイクをなぎ倒し、包囲を破る。サンシャインがそれに続く。

「どけどけっ!」

 このまま一気に逃げ切ろうとしたその時だ。星のバイクに源のバイクが体当りしてきた。星は弾き飛ばされて地面に叩きつけられる。

「おっと、やりすぎたかな?」

 源が星を見下ろして言うと、手を差し伸べる。星がその手を振り払うと、

「せっかく……ひとが心配してやってんのに」

ひょいっと星の身体を持ち上げた。

「心配無用よ!お放し!このデカ!」

「どなるな、美人が台無しだい。おおい、そっちののっぽ!」

 サンシャインに向かって言う。

「ボスは手の内だぜ。さあどうする?」

 その時、何が起こったのか、おそらくその場にいた誰も理解できなかっただろう。

 星の長い黒髪が源の首に、キリ、と巻き付いたのだ。

「ぐわっ!」

「ボス!」

「あぐ」

 源は喘いで、苦し紛れに拳を振り上げ、星を殴った。

「きゃあっ!」

 悲鳴を上げて、星は源の肩から飛び降りる。

「星!」

 サンシャインが駆け寄る。

「星!星!」

「平気!こめかみを殴られただけよ!」

 サンシャインにそう言って、星はバイクに飛び乗った。

「そらおどきっ!そっちのボスの心配でもおし!」

 手下たちが源に駆け寄る。

「源!」

「ボス!」

「グッ!ゴボ!ゴボ!」

 源はしばらく咳き込んで、ようやく立ち上がった。

「くそお!ひでえ女だ!」

「大丈夫か」

 手下たちが口々に話す。

「えらいパワーだよ」

「上区を仕切るだけあるな」

「十五、六の小娘のくせに」

「あの髪、しかけがあるんだぜ!ヘビみたいに巻き付いてきた」

 源はまだ苦しそうだ。

「どうした、エルグ」

 黒マントの男はエルグといった。残された星の髪の毛をつまんで、何事か考えている。

「いや……うん」

 その頃、星たちはシティに向かって走っていた。

「星!なんともないか?目が痛いのか?」

「平気!心配性ねサンシャイン」

 そう言う星はしかし、片手でずっと左目を押さえている。

(ミスったわ。まさか)

 星は目を押さえたまま、思った。

(まさか、だれも見なかったでしょうね……!)

 エルグは思い出していた。殴られた星が、バイクで逃げるまでのほんの数秒。

(一瞬だったが……)

 彼は、見ていた。

(あの少女の、左目  

 コンタクトが落ちて。

(そうだ。あの黒い目はカラー・コンタクトだ)

   あれは。

 真っ赤  

   赤い目だった!


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